2026/04/15 12:00

このブログは、【4月19日21時〜販売開始】紅茶の里で、人民は緑茶を飲む 〜英徳緑茶 春前峰 西洞 2026春〜 の続きです
前回は、紅茶の里・英徳で出会った人民緑茶について書きました。
紅茶の名産地なのに、人民は日常で緑茶 “も” 飲んでいる
そして、その日常に寄り添う緑茶こそが、我々が提案したい人民緑茶なのだと
では、今回の人民緑茶5種類の中でも
比較的名前だけは知っている方も多そうな
龍井系の茶葉はどうなのか?
今日はそのお話です
今回ご紹介するのは
・越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 明前
・越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 雨前
の2種類
しかしです
このお茶の話をするには、まず避けて通れない話があります
▼西湖龍井には偽物が多い。多かった?いや、今も色々あるでしょう
これは皆さまご存知かと思います
中国は、日本と比べ物にならないくらい偽物が多い
いや、もう少し正確に言うなら
偽物、紛らわしいもの、言い方次第でどうとでも取れるもの、そういうものが多い
中国と関わり合いのある仕事や生活をしていると
必ず何かしらの「それ、本当にそうなの?」みたいな案件に遭遇します
茶葉だってそうです
茶畑から消費者の手に届くまで
その茶葉や、その茶葉にまつわる情報が
どれほど正確に、どれほどストレートな形で届いているのか?
私は、正直なところ
それを100%証明する根拠を持っていません
※茶樓雨香の場合です
この茶葉が〇〇産の山場で
×月△日に摘まれて
流通の過程で他の茶葉とすり替わらず
あなたの手元に届いております
そこまで厳密に言い切れるのか?
言い切れないでしょう
少なくとも、私にはそこを完璧に保証する魔法の証明書はありません
だからこそ私は思うのです
茶葉の真贋は、最終的にはお店の信頼が決定打になるのだと
どれだけ立派な説明があっても
どれだけもっともらしい産地情報があっても
最後は「この店が本気で向き合っているかどうか」に尽きる
「こたつ仕入れは絶対にしない」
だからこそ我々は、できるだけ現地へ足を運ぶ
農家さんや茶師の皆さんと直接やりとりをする
そして少しずつ、時間をかけて信頼を積み上げていく
我々を信じて茶葉を買ってくださる皆さまには
本当に感謝しかありません
そしてその信頼に少しでも応えられるよう
できるだけ自分の足で確認しに行く
それしかないと考えています。
▼越郷龍井って、皆さま聞いたことありますか?
ではここで本題です
越郷龍井
皆さま、聞いたことありますか?
私は正直に申し上げて
ほとんど聞いたことがありませんでした
実は、完全に初耳というわけではない
頭の片隅に
越郷龍井という言葉と
嵊州という地名が
なんとなくシナプスが絡み合うようにセットで引っかかっていた
でもそれだけです
では何故、その引っかかりが残っていたのか?
話は約3年前まで遡ります。
▼コロナ明け、まだ渡航制限があった頃の上海
コロナ明け前夜で、まだ渡航の面倒くささが色濃く残っていた頃
面倒くさいビザを取り
わざわざ中国へ茶葉を仕入れに訪れていた私は
上海の茶城でリサーチをしておりました
数年渡航ができなかったせいで
中国の茶葉市場も色々変わっているのではないか?
今、現地では何が売れているのか?
どういう茶葉がどんな顔で流通しているのか?
それを確認するために、茶城の中にあるお茶屋さんを何軒か回っていたのです
で、せっかく春茶のタイミングでもあるし
今年の西湖龍井を試してみたいと思いました
なので、とある店に入ってこう尋ねたのです
『明前と雨前の西湖龍井ある?』
すると男性の店主は
いかにも待ってましたと言わんばかりに
『うちは西湖龍井の専門店だから、頭採から雨前まで全部あるよ』
と、得意げに話してくれました
しかも彼は
自分たちが扱っている龍井は西湖龍井のみであると力説していた
おお、そうかそうか
そんなに言うなら、ちょっと見せてもらおうじゃないか
と思いながら店内を歩いていると
ふと、気になる段ボール箱が目に入ったのです。

▼段ボール箱に書かれていた文字
その段ボール箱には、でっかく
越郷龍井
と書かれておりました
しかもカートンマークもばっちり明記
さらに宅急便の送り状には
送り先:上海市 ◯◯茶城
送り元:浙江省 嵊州市
と、しっかり書いてある
・・・・あれ?
なんか怪しい。普通に怪しい。
いや、もちろん
西湖龍井専門店が越郷龍井を仕入れてはならない法律はないです
だけど、あれだけ「うちは西湖龍井のみです」と力説しておきながら
店の奥には越郷龍井の密かに箱がドンと置いてある
これはもう、疑わない方が不自然でしょう
中国で生活や仕事をしていると
どうしても疑い深くなります
疑い深くならないと、逆に危ない。性善説でありたいけれどもそれだと生き馬の目を抜く世界で生きていけない
そういう土壌で生きていると
こういう違和感を見過ごせなくなってくるのです
そして、この時の小さな引っかかりが
数年後に見事な伏線として回収されることになります。
▼だから私は、西湖ではなく嵊州へ向かった
という伏線がありまして
生粋の天邪鬼である私は
今年の春茶シーズンに、浙江省の西湖へ向かうのではなく
嵊州市へ向かうのでした
いや、普通なら西湖へ行くでしょう
龍井と聞けば、まず西湖を見に行く。それが王道です
しかし私は、どうしてもあの段ボール箱の件が引っかかっていた
越郷龍井って、実際どうなんだ?
そこを自分の舌で、目で、いやどんな人たちが作っているのか?確かめたくなってしまったのです
本当に面倒くさい性格です。すみません。

▼ガンパウダーの農家さんに、龍井農家さんを紹介してもらう
嵊州では、事前にアポイントを取っていた
ガンパウダー、つまり水平珠茶の農家さんを訪ねました
この水平珠茶というのは
他の緑茶とはちょっと流通の世界が違います
北アフリカや東欧向けの輸出用茶葉として動く事も多く
基本は大量生産・大量消費
なので、価格帯もまるで違うし
生産者も違う
一応、水平珠茶の上位互換的な存在として
輝白茶と呼ばれる茶葉もあります
しかし、味わいとしてはガンパウダーとはまた別物
しかも上位互換とは言いつつ
辉白茶もかなり安い
この辺の世界を見ていると
中国緑茶市場の層の厚さというか、価格帯の幅の広さに改めて驚かされます
で、その水平珠茶の農家さんにお願いして
越郷龍井の農家さんを紹介してもらったのです。
▼そして、因縁の越郷龍井とご対面
そして遂に
因縁の越郷龍井とご対面です
で、どうだったか?
あれ、めちゃくちゃ良いぞ。
これが率直な感想でした
いや、本当に驚いた
気がつけば20種類以上試飲させてもらっていたのです
何故そんなに試飲できたのか?
実はちょうど、私と同じタイミングで
大口の上海の茶藝館バイヤーが同席していたのです
ラッキー
バイヤー向けの本気試飲モードに
そのまま便乗させてもらった形です
現場では、こういう偶然があるから面白い
しかも試飲のラインナップも実に幅広い
そこで私は、自然と群体種を中心に見ていきました。
▼どうして茶樓雨香は群体種の龍井を選ぶのか?
私が群体種の茶葉ばかり見ていると
同席していた上海バイヤーが不思議そうに聞いてきました
『どうして龍井43を選ばないの?』
ごもっともです
龍井43や烏牛早などの品種茶は、非常に優秀です
発芽も早い
揃いもいい
香りの設計もわかりやすい
商品としても扱いやすい(芽吹くのが早いので売りやすい)
だけど、私はどうしても思ってしまうのです
優秀だけど、なんか違う
もちろん、これは好みの話でもあります
でも、せっかく尖った龍井を探しに来ているのに、そこで品種茶のわかりやすさに乗ってしまうのは少し違う気がしたのです
だったら最初から、群体種に絞った方が良い
そう考えました
それから実際に飲んでみると
龍井43や烏牛早は、全体的に香りも味わいも少々薄く感じた
綺麗にまとまってはいる
でも、私が欲しいのはそういう“優等生感”ではなかった
一方、上海バイヤーはこう力説していました
『龍井43は品種茶だから、地域差が出にくい。だから品種茶の方がいい』
なるほど、それも一理ある
商品として均質性を担保したいなら、その考え方は正しいでしょう
でも私は逆です
地域差が出るからこそ、面白いと思ってしまう
土地のクセ
ヴィンテージのクセ
製茶のクセ
そういうものが茶葉に表れてくるからこそ
わざわざ現地へ行く意味があるのです。

▼選んだのは、明前と雨前の2種類
そして最終的に選んだのが
越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 明前
越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 雨前
この2種類です
どちらも群体種
どちらも禹山
しかし摘採時期が違う(なんと、2日違い‼️‼️)
だからこそ、並べてご紹介したいと思いました。
▼明前は、4月4日摘み。ホッとする龍井
まず明前
こちらは、清明祭前
4月4日茶摘ロット
飲んだ瞬間、龍井らしい釜炒りの豆香が素早く立ち上がります
ああ、これこれ
と思わせてくれる、あの安心感
だけど、ただ龍井っぽいだけではない
飲んでいると、妙にホッとする
なんだか眠くなるような
解(ほぐ)れるような
気持ちが少し静かになるような
そんな飲み心地があるのです
私はこれを飲んだ時に思いました
これは、自分をどこか落ち着かせたい時に飲みたいな。と
仕事の切り替えでもいい
ざわざわした頭を少し静めたい時でもいい
夜に、今日はもういいか。みたいな気分で飲んでもいい
明前というと
どうしても希少性とか繊細さとか、そういう方向に話が行きがちですが
この明前は、もっと生活に近いところで効いてくる龍井でした。
▼雨前は、4月6日摘み。気持ちよさはこちらが上
そして雨前
こちらは穀雨前の
4月6日茶摘ロット
まさに出来たてほやほやのタイミングで試した茶葉です
で、正直に申し上げます
飲み心地の気持ちよさは、こちらの雨前の方が良い
これはもう、はっきりそう感じました
香りには焼き栗
そして、その奥に仄かな花の余韻
このバランスが実に良い
龍井らしい香ばしさを持ちながら
後半の抜け方が綺麗で、清廉。
身体にすっと入ってくる
中国のおっさんが飲む緑茶として考えるならかなり上出来です
いや、上出来すぎる
おっさんにはちょっともったいないだろ(笑)
と、思わず言いたくなるくらいには出来が良い
普通にお茶会で振る舞っても
全然問題ないレベルの茶葉です
こういう茶葉に出会うと
人民緑茶って何なんだろう?と
こちらが逆に問い返される感じすらあります
価格は日常寄り
でも中身は、かなり立派
それが、この雨前でした。
▼茶葉も良い、価格も良い。だけど一つ引っかかることがあった
ここまで来ると、もう仕入れで良いじゃないか!となりそうですが
私は最後に、どうしても一つ聞いておきたかった
失礼を承知で、農家さんにこう問いかけました
『西湖龍井と越郷龍井、あなたはどちらが美味しいと思う?』
かなり意地の悪い質問です。でも、聞きたかった
知名度では西湖龍井が圧倒的でしょう。その事実は誰だって知っている
では、作り手自身はどう思っているのか?
すると農家さんは、間髪入れずに
『越郷龍井に決まってるだろ!』
と、食い気味に返してきたのです
この返答で、私は決めました
越郷龍井を2種類仕入れようと
もし彼らが
「いや、やっぱり西湖龍井には敵わないよ」
みたいな温度感だったら
私は販売用としての仕入れを見送ったと思います
自分たちが作る茶葉に対して
作り手自身がそこまで自信を持てないのであれば
こちらも胸を張ってご紹介できない
しかし彼らは違った
知名度では西湖龍井に敵わない。だけど茶葉のクオリティでは絶対に負けない
そう力説していた
この言葉には、強さがありました
私は、そういう作り手の茶葉を買い付けたい。
▼だから今回は、西湖龍井ではなく越郷龍井を推したい
誤解しないでいただきたいのですが
私は西湖龍井を否定したいわけではありません
西湖龍井には西湖龍井の凄みがある
本当に良いものは、やはり素晴らしい
しかしその一方で知名度が高いがゆえに
情報も価格も期待値も、色々なものが過剰に乗っかりやすい
だったら一度、少し横に逸れてみるのも面白いのではないか?
皆が西湖を見るなら、私は嵊州を見る
皆がブランドを見るなら、私は作り手の目を見る
その結果として出会ったのが、今回の越郷龍井 明前・雨前です
これは、かなり良いです。

▼明前と雨前、どちらを選ぶべきか?
最後にざっくり申し上げると
明前は
落ち着きたい時
ホッとしたい時
少し自分を静かに戻したい時に
雨前は
飲み心地の気持ちよさ重視
香ばしさと余韻の良さを楽しみたい時に
おすすめしたいです
どちらも群体種ならではの面白さがあり
龍井43とはまた違う
少し尖った、でも日常にも落とし込める龍井
それがこの2種類です。
▼という事で、今年の人民緑茶に龍井を2種類入れました
西湖じゃなくて嵊州へ行く
品種茶じゃなくて群体種を見る
知名度じゃなくて、現場で感じた強さを信じる
そうやって選んできたのが
越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 明前
越郷龍井 嵊州 禹山 群体種 2026 雨前
でございます
人民緑茶と言うと
もっと無名で、もっと雑味のある茶葉を想像する方もいるかもしれません
でも今回の龍井2種は
人民緑茶の射程を少し広げてくれる存在です
日常で飲める価格感
でも、お茶としてちゃんと面白い
しかも作り手に気概がある
こういう茶葉は、推さずにはいられません
では次回、また別の人民緑茶について書きたいと思います
下次见
