2025/11/15 04:22

進化を止めた、蓋碗たち
茶樓雨香が今年の春からずっと開発していた鳳凰単叢 特化型 蓋碗
覚えている人はどれくらいいらっしゃるのでしょうか?
なんか今年のエコ茶会までに販売間に合わせるとか言ってたな~。
結論から申し上げます。
間に合いませんでしたーーーーー!!!
本当にすみません。
色々言い訳させてください
▼言い訳①普通にコストが激高になる可能性があったので、コストを抑えるために大量に作らなければならず。出口戦略が少し甘かった。
試作を重ねれば重ねるほど
『あれ?これ、めちゃくちゃ金かかるぞ?』
という現実に直面した
大量生産すればコストは下がる
でも、売れなかったらどうする?
在庫の山に埋もれて死ぬのか?
結果、出口戦略が甘かった
▼言い訳②仮説を立てて検証していったら、思った効果が得られなかった
『この形状なら、絶対に香りが立つ!』
『この素材なら、絶対に熱が伝わる!』
仮説を立てて
試作して
検証して
『あれ?思ったほど変わらないぞ?』
という現実に直面した
何度も、何度も…挫折
▼言い訳③ある程度、完成に近づけたが、これは茶樓雨香の冠で出す商品のクオリティではなかった。
70点の蓋碗はできた
80点の蓋碗もできた
でも、茶樓雨香の名前で出す蓋碗はもっと良くないとダメだ
妥協したくない
妥協できない
完璧主義が色々悪いのは知っている。世の中に存在する商品の殆どが妥協の産物であると知っている
完璧主義とは"己の理想が低いだけ"である
そう、私は知っている
でも、もうちょっとだけクオリティを上げたい。
本当にごめんなさい
実を言うと、毎年アップデートを重ねながらリリースする事も当初の予定としてはあった。
Ver.1をエコ茶会2025で発表
Ver.2をエコ茶会2026で発表
Ver.3をエコ茶会2027で発表
そんな計画もあった
あの蓋碗を手にするまでは・・・

▼潮州で出会った、悠久の時間を経て進化を止めた最後の蓋碗
潮州朱泥手拉壺のブログでも書きましたが
頼通発老師の工房で老師が鳳凰単叢 母樹をいれる際に使っていた蓋碗
あの蓋碗である
今年の夏、ふとしたきっかけであの蓋碗を老師の作業場で使ってみた
本当に使いやすいし。抜群に美味しくお茶がはいる
うわっ。何なんだこれは!
これは、俺が目指している蓋碗そのものなのではないか?
一口すすった瞬間、分かった
これだ
これが、答えだ
▼老師にこの蓋碗の出どころを聞いてみると
『これって俺が買ったものではなくて、建彬が持ってきたやつよ』
おぉ、老師のあたりが一番強い、おっちょこちょいで、何故か憎めない王建彬くん!!
王建彬くんに早速、工場の担当者を紹介してもらい、今年一番の仕事をしてもらいました。
俺ってついてるね~

▼進化の軌跡、最終形態蓋碗。潮州市内にある磁器の工場へ。
潮州は実は磁器(セラミック)の一大産地。
郊外には結構大きな磁器の工場もある
例の工場へ向かい工場長の茶室兼ショールームに入ると、デカい茶盤の上に無数の蓋碗と小杯(茶杯)が並んでいる
工場長と握手の後に、開口一番。
『赤子の時に母乳を飲むだろ?俺は赤子の頃、母乳と一緒に蓋碗でいれた鳳凰単叢を飲んできたような人間だ。蓋碗と茶杯については何でも聞いてくれ。』
強い
強すぎる
この工場長、めちゃくちゃ強い
一緒に茶盤の前で鳳凰単叢 八仙を一緒に啜ると
一気にトップスピードで鳳凰単叢と蓋碗、茶杯について情報と熱量を工場長から浴びる事になった
▼そして、あの私が頼通発老師の作業場で手に取った蓋碗について切り込んでみる。
『ああ、これね。』
それは正に、目の前で鳳凰単叢八仙をいれていた蓋碗であった
『これはもう、改良するところがない。もう終わり。面白くないけどな。もう潮州のファインボーンチャイナの蓋碗はこれで終わりなんだ。』
と少し淋しい声でこたえてくれた
『お前の、やりたいことはわかる。お前が鳳凰単叢や工夫茶に対するリスペクトも十分理解できる。だけどここでお前の考えている事って俺たちやその前の世代の職人や茶商が既に通過してきた場所なんだよ。』
ですよね〜〜〜〜〜!!!!
工場長の言葉が、私の胸に突き刺さる
うん、ちょっと、甘かったか。いや、めちゃくちゃ甘かった。
知れば知るほど己の無知を知ることになる。
学びや研究を続けると必ず思い知らされるこの感覚。
潮州朱泥手拉壺の時も
鳳凰単叢の時も
そして、今回の蓋碗も
俺は、何も知らなかった

▼工場長が私にこう問いかけてきた
『こんなに私たちの蓋碗を評価してくれるのであれば、日本の貴方のお客さまに紹介してみてよ。』
『俺も商売でやっている。卸値で仕入れたいのであれば、最低発注ロットをクリアしてほしいところだけど、この蓋碗は潮州人の誇りなんだ。これを日本向けに輸出したことはないけれども、試しでやってみるか?』
『発注ロットは気にするな。とりあえず欲しい分だけ用意する。それが蓋碗一つだけでもいい。卸価格で売ってやる。但し一回だけな。』
なんだこの工場長は
カッコよすぎるだろ
▼ここまで工場長に言われたのですが、なんか素直になれない。
そのまま己の理想とする蓋碗を完成させてから、同時に飲み比べできるように販売するべきかなのではないか?
いや、多分違う。
己の空虚な自尊心の為に、この素晴らしい蓋碗の紹介を先延ばしにするのは中国茶ファンにとって良くないのではないか?
我々のやるべきことは日本の中国茶ファンの喜ばせること。この一点のみ
そう、それだけ
▼という事で、先に販売します。潮州の数百年の茶文化歴史の中で研ぎ澄まされたファインボーンチャイナの蓋碗
潮州で蓋碗を使いそこに住む人々がお茶を飲むようになってから、数百年。
恐らく、沢山の人たちが蓋碗の形状、素材、大きさ、使い勝手について改良を重ねてきた。
もう、改善するところがない程に
私が思いつかない、いや気がつくことさえできない細かいレベルの改善を行ってきたのだろう
この蓋碗を手に取ると、究極まで研ぎ澄まされた結果、乳白色のファインボーンチャイナが透明感を帯びたまっさらな純朴な茶器にみえる
それはまるで、戦闘機や潜水艦のように一つの目的の為だけにデザインされた、光り輝く純朴の塊。
私とStechcol社のデザイン部が旗振り役となりデザインした鳳凰単叢 特化型 蓋碗。
しかし、この目の前にあるファインボーンチャイナの蓋碗ほどに純粋に鳳凰単叢を飲むことだけに全振りしただろうか?
もっともっと鳳凰単叢 特化型 蓋碗はスパルタンに仕上げないといけないと、心に熱く誓ったのであった。
▼という事で、基本スペックを紹介したいと思います
潮州2.8寸清雅蓋碗
・満水100ml
・牛骨灰:焼成前43%、焼成後約38%
・焼成温度:1160度
この数字が何を意味するか?
これは、ベンチマークの鳳凰単叢 をいれる蓋碗のスペック
▼薄胎。ボディが薄いは正義なのか?
薄すぎると生じるデメリット
・薄いと、割れやすい
これは、誰もが知っている
でも、この蓋碗は違う
割れにくくするために、極限まで焼き締めて、かなり固く割れにくい仕様へ進化させました
薄いのに、強い
軽いのに、丈夫
これが、数百年の進化の答えの一つ
▼底の部分にアールをつけて底の部分にお湯が潜り込みやすい設計。これは潮州朱泥手拉壺の考え方と同じでした
底が平らだと、茶葉が開きにくい
底にアールがあると、お湯の流れができる
蓋碗の底の部分の茶葉に熱湯が降り注ぎ香りが立つ
▼お皿(ソーサー)は、いらない。いらないものは売らない。
蓋碗にソーサーは必要か?
いらない
本当に、いらない
鳳凰単叢を飲む時、ソーサーは邪魔だ
だから、つけない
シンプル イズ ベスト
▼という事で、こちらもエコ茶会で先行販売致します。在庫の状況によってはウェブショップでも販売します!
潮州2.8寸清雅蓋碗 税込み2860円
正に、鳳凰単叢マニアための蓋碗
そして、香りを同時に楽しむ為に茶杯も用意しました
乞うご期待!!
▼販売情報
11月22日(土)・23日(日)
第21回地球に優しい中国茶交流会
茶樓雨香ブースにてお待ちしております!!
※在庫状況によってはウェブショップでも販売予定
▼最後に
私が開発していた鳳凰単叢 特化型 蓋碗は、まだ完成していない
でも、この潮州2.8寸清雅蓋碗は、既に完成している
悠久の時間をかけて
数え切れないほどの人の手を経て
究極まで研ぎ澄まされた
私が作ろうとしていた蓋碗は
もしかしたら、この蓋碗を超えることはできないかもしれない
でも、それで良いかもしれない
私は、まだ挑戦を続ける
いつか、この蓋碗を超える蓋碗を作る
でも、今は
この蓋碗を、日本の中国茶ファンに届けたい
数百年の進化の軌跡を
進化を止めた、最後の蓋碗を
さぁ! みんなで!! 今この瞬間!!
この究極の蓋碗で鳳凰単叢の最大瞬間風速を吹かせようぜ~!!
